派遣社員を取り入れ始めた会社での正社員の苛立ち

当時、私がまだ20代半ばで、派遣社員になって間もなかった時の話です。私は、一部上場企業の企画開発部のマーケティング課で、派遣社員としてアシスタント業務をすることになりました。前職は、同じ派遣会社から別の会社に派遣され、残業が多い職場でパソコンオペレーターをしていましたが、そこでの真面目な姿勢と仕事の評価が良かったので、2社目に大手企業を派遣会社から紹介されたのです。

具体的な仕事は、マーケティング課が取り扱っている、新聞や雑誌に載っている関連記事の情報整理でした。今までは、その部署の一番の若手の正社員の人が行う仕事でしたが、仕事量が増え、大きな負担となり、また、パソコンに精通したアシスタントを求めて、初めて派遣社員を依頼したとのことでした。営業部などでは、既に派遣社員が働き始め、正社員の一般事務の中に、派遣社員が入り始めてきたタイミングでした。

私が企画開発部に入るまでは、マーケティング課には一般職の方がおらず、企画開発部全体の庶務を担当していた女性正社員の方が、アシスタント業務も担っていたそうです。私が就業してからも、マーケティング課の庶務は、この女性正社員の方が行っていました。

私がする仕事と、この女性正社員の仕事は、基本的にはかぶっていなかったのですが、彼女の手が空いていない時に、来客や会議にお茶出しをすることがあり、そのやりかたは、彼女から教えてもらっていました。最初はとても友好的でした。この方は、卒業後から一般職としてずっと働き続けてきたベテランでした。恐らく、30代前半だったと思います。

新しい派遣社員という存在に、興味があったのかもしれません。仕事上のかかわりは殆どありませんでしたが、同じ部内で働く女性同士と言う事で、最初はランチに誘われることもありました。

しかし、徐々に態度が高圧的になってきました。きっかけは、彼女が所属する課の男性が、私に来客のお茶出しを頼んだことでした。たまたま、その女性正社員が席をはずしていたため、私にお茶出しを頼んだ、それだけのことです。私に頼んできたのは、まだ20代で、勤続年数は彼女より短い男性社員でした。

私は言われた通りお茶を出しました。それが、彼女の逆鱗に触れてしまったようです。その後、頼まれたシュレッダーをのんきにかけていた私に、いきなり彼女がツカツカと歩み寄ってきたのです。

「ちょっと、私の課のお客様にお茶を出したんですってね」

彼女が怒っているのは、すぐにわかりましたが、なぜ怒っているのかさっぱりわからない私は、「はい」と答えました。

「勝手なことしないでくれる!?」

いきなり切れた彼女は、

「仕事のペースが乱れるのよ!」

と私に言い捨て、立ち去りました。私はただただポカンです。頼まれたことしただけ、しかも誰がしても問題が出なさそうなお茶出し。なのに、どうしてこんなに怒られなければいけないんだろう。でも、基本的に仕事上のかかわりは殆どありません。私は驚いたけど、気にしないことにしました。

後から、私にお茶出しを頼んだ男性社員が、「ごめんね」と言ってきました。どうやら彼も、勝手に私にお茶出しを頼んだことを、彼女に怒られたようです。私は笑って「大丈夫です」と言いました。その後、その女性正社員に資料を持っていくように、マーケティング課の人に頼まれたので、彼女のいるデスクへ行きましたが、「お茶出しを頼まれたら、必ず私に報告して」と、私の目を見ずに言われてしまいました。「リストに書いておいて」とも。

どうして、そこまでしなければならないんだろうと、さすがに憮然となりましたが、それで彼女の気が収まるならと、短く「はい」と答えました。反抗的に聞こえたのかもしれません。一瞬彼女はムッとしました。

その後、お茶出しする前には、わざわざ彼女のいる課まで足を運び、それを報告するようになりました。私は言われたことをしていただけです。わざわざリストも作って書いて提出していました。でも、その内、そんな私の行動を面倒に思い始めているというのがわかるようになりました。

お茶出しなんて、誰がしても良いのです。彼女はたまたま怒りの感情に任せて、私にどうでも良い指示をしてしまったのです。自分から言い出したことなので、今更ひっこめるわけにもいかなかったのでしょう。結局私がこの企業を満期終了するまで、このやり取りは続きました。

彼女は、表面的には私に普通に接してくれました。周囲から、若い派遣社員をいじめるお局とは思われたくなかったのでしょうか。でも、大人の対応とは程遠い、私が邪魔で仕方がないいう気持ちはダダ漏れでした。

「派遣社員なんて、結婚相手を探しに来てるんでしょ」

そう言われたこともあります。確かに、職場は出会いの場でもあります。派遣社員と正社員の結婚話は、特に珍しい話ではありません。でも、それは正社員同士でも、良くあることです。

当時、一般職が廃止され、今まで一般職の正社員が行っていた仕事はどんどん派遣社員に移行している時代だったので、今ならば、彼女の危機感を理解することができます。自分のやっている仕事が、一時的な雇用形態の派遣社員、しかも自分より圧倒的に若い女性でも、全く問題なくこなすことができると会社が思っている、という事なのですから。

私と彼女は根本的にやっている仕事は違いましたが、営業部などは、正社員が行う仕事と、派遣社員が行う仕事、同じ営業アシスタントとして、何の違いもなかったりするのです。会社側が、今まで頑張って働いてきた正社員の一部を蔑ろにする行為をしてくるのですから、派遣社員に八つ当たりをしたいという気持ちになっても仕方がないかもしれません。

こういったトラブルを防ぐためにも、派遣社員を雇う企業側の配慮が必要だと思います。正社員が行う仕事と、派遣社員が行う仕事、責任や内容を区別化することで、より良い関係が築けるのではないでしょうか。